法令遵守は健康経営の基盤を成すもの(前)
2020/04/03
労働者の健康管理上の問題に対する企業の取り組み方は、法令遵守からCSR(企業の社会的責任)、そして健康経営へと変化しています。
労働者の健康管理上の問題が企業における重要課題として取り組まれることになったきっかけが、1990年代後半に長時間労働に起因してうつ病を発症し自殺に至った事案。その後東京地裁より企業側に約1億2,400万円の賠償を命じる判決が言い渡されました。
2000年に入ってからは法令遵守とCSRの観点から労働者の健康管理上の問題に取り組む動きが出てきました。
社会的公正や環境などに配慮しながらステークホルダーに対し責任ある行動を取るとともに説明責任を果たす必要があるという考え方がCSRですが、労働者もその利害関係者の一人と位置づけ、労働者の健康管理上の問題を捉えるようになりました。
つまり、健康経営はCSR、法令遵守の考え方を踏襲しているもので、独立した考え方・マネジメント手法ではありません。5回目は健康経営に関連する法律や守るべき義務についてポイントをご紹介します。
法令遵守と公法的規制
企業と労働者との間の労働関係は、基本的には当事者間の合意に基づく契約関係であって、私法(市民法)の基本原理によって規制されるものです。
しかしながら、実際には企業と労働者との間には経済的実力の違いが存在するため、どのような内容の労働条件(労働時間・賃金など)であっても、当事者間の合意に基づくものである以上、有効に成立するとして、すべてを当事者間の合意に委ねることは、長時間労働・低賃金と言った劣悪な労働条件が契約自由の名の下に放置される結果をもたらしかねません。
そのような結果が生じないよう、労働者保護のために立法化されたのが労働基準法や最低賃金法などの労働法規です。
労働基準法(公法的規制の基本法)
労働者の健康管理に関する規定として、以下の内容が企業(使用者)の責務として定められています。
1.労働時間・休日の原則
1日に8時間、1週間に40時間を超えて労働させてはならず、また、毎週少なくとも1日(もしくは4週間を通じて4日)以上の休日を与えなければならない。労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上の休憩を労働時間の途中に与えなければならない
2.時間外・休日労働
1の労働時間(法定労働時間)を超えて労働させる場合や休日に労働させる場合には、あらかじめ事業場の過半数組織組合または過半数代表者との間で労使協定(36協定)を締結した上、労働基準監督署長に届けておく必要がある
3.変形労働時間制・裁量労働制等
1の労働時間規制の弾力化として、単位となる期間内において所定労働時間を平均して週の法定労働時間を超えなければ、期間内の一部の日または週の労働時間が1日または1週の法定労働時間を超えても、それに当てはまらないとする変形労働時間制などが定められている
4.年次有給休暇
雇入れ日から起算して6カ月間継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者に対して10日の有給休暇を付与する
5.母性保護
坑内業務・危険有害業務の就業制限、産前産後の保護、育児時間、生理休暇について定められている
6.労働災害の補償
労働者が業務上負傷し、疾病にかかり、または死亡した場合には療養補償、休業補償、障害補償、遺族補償、葬祭料に関する補償を行う
労働安全衛生法(公法的規制の中核)
労働者の健康管理に関する規定として、以下の内容が企業(使用者)の責務として定められています。
1.衛生管理体制の整備
衛生推進者等の選任義務(10人以上50人未満の事業場)のほか、産業医、衛生管理者の選任、調査審議機関としての衛生委員会の設置義務(50人以上の事業場)などが定められている
2.有害物の規制等労働者の健康障害を防止するための措置
粉じんや有機溶剤、四アルキル鉛、放射線等による健康障害の発生を防止するため必要な措置を講じる
3.労働者の就業上の措置
衛生教育の実施、年少者・妊産婦等に対する有害業務への就業制限、中高年齢者等に対する配慮等の措置義務
4.労働者の健康確保のための措置
労働衛生の三管理、作業環境の管理(作業環境を良好な状態に維持する)、作業管理(作業に伴う個々の労働者の疲労やストレスが過度にならないように作業を適切に管理する)および健康管理(労働者の健康状態を的確に把握し、必要な措置を講じる)にかかる措置義務
(例)定期健康診断の実施、ストレスチェックの実施
5.労働者の健康の保持増進および快適な職場環境の形成のための措置
職場における労働者の健康の確保、労働者の健康の保持増進を図る措置、快適な職場環境の形成のための措置を講じる
※労働安全衛生法では努力義務だが、健康経営では重要ポイント!
<「健康経営オフィス」の7つの行動と「快適職場づくり指針」>
A:快適性を感じる/(指針の「目的」そのもの)
B:コミュニケーションする/相談室・談話室等の確保
C:休憩・気分転換する/休憩室等の心身の疲労の回復を図るための施設・設備の設置
D:体を動かす/労働者向けの運動施設の設置
E:適切な食行動をとる/食堂等の食事をすることのできるスペースの確保
F:清潔にする/労働者の職業生活において必要となる施設・設備を清潔に維持管理
G:健康意識を高める/(快適職場づくりのベースとなるもの)
※「健康経営オフィス」は経済産業省、「快適職場づくり」は厚生労働省が定めたもの
働き方改革関連法
2018年6月に成立した働き方改革関連法とは、
・労働基準法
・じん肺法
・雇用対策法
・労働安全衛生法
・労働者派遣法
・労働時間等設定改善法
・パートタイム・有期雇用労働法
・労働契約法
以上8つの法律の改正を内容とするものです。
労働者が心身ともに健康で意欲をもって働くことにより労働生産性の向上につなげることを目指しています。
<働き方改革関連法の目的と施策>
①働く者がその健康を確保しつつ、ワークライフバランスを図り、
能力を有効に発揮できる労働時間制度等を構築すること
↓ ↓ ↓
1)労働時間に関する制度の見直し
2)勤務間インターバル制度の普及促進
3)産業医・産業保健機能の強化
②雇用形態にかかわらない均等・均衡待遇を確保し、正規雇用労働者と
非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差を解消すること
1)不合理な待遇差を解消するための既定の整備
2)労働者に対する待遇に関する説明義務の強化
その他関連法規
1.労災保険法
労働基準法の災害補償責任の履行の確保
(例)療養補償給付、休業補償給付、障害補償給付、遺族補償給付、介護保障給付など
2.男女雇用機会均等法
妊娠中や出産後の女性労働者の健康管理に関する措置だけでなく、セクシュアルハラスメントやマタニティハラスメントを禁止し、企業に一定の措置(相談窓口など)を講じる
3.高齢者の医療の確保に関する法律
特定健康診査(特定検診)と特定保健指導の実施を医療保険者に義務付け
※特定検診の対象年齢は40歳~75歳未満
4.個人情報保護法
企業が労働者の健康管理を行うに際して、健診結果や事後措置の内容等健康情報を含む労働者の個人情報の保護に配慮し、他の個人情報よりも慎重な取扱いを行う
5.過労死等防止対策推進法
6.健康増進法
学校や病院、劇場、飲食店等多数の者が利用する施設を管理する者に対し、利用者の受動喫煙を防止するための措置を講ずる
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コーチングサプリ
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