健康経営|他の経営課題の改善・解決へ ⑦心理的安全性
2024/01/18
心理的安全性は、米国のGoogle社がチームの成果を高めることを実証的に示したことで、実務でも注目を浴びるようになりました。学術的には、経営学者であるエドモンドソンによって提案された概念を中心に研究が進んでいます。これまでの研究から、心理的安全性はエンゲージメントなどのポジティブな概念と正の関係性が示されています。しかし、心理的安全性はいつでも成果につながるわけではありません。組織の文化や仕事の特徴などが異なる場合に、心理的安全性をうまく組織成果につなげるためには、心理的に安全な職場やチームはどういう状態であるのか、職場やチームの成果を高めるプロセスではどのようなことが起きているのか、などを理解する必要があります。
心理的安全性とは
エドモンドソンは心理的安全性について、チームにおいて他のメンバーが時分が発言することを恥じたり、拒絶したり、罰を与えるようなことをしないという確信を持っている状態であり、チームは対人リスクをとるのに安全な場所であるとの信念がメンバー間で共有された状態、と定義しています。この定義から、心理的安全性で重要なポイントは、チーム内で発信することにメンバーが脅威を感じないということ、もう1つはその感覚がチーム内で共有されていることの2点になります。
1点目の「発言することに脅威を感じない」については、発言にどのような対人リスクが想定されるのかが重要になってきます。たとえば反対意見を言うときには、相手の気分を害するリスクがあるといったことです。2点目については、心理的安全性はチームの現象ですが、心理的安全性を感じるのは個人です。個人の感じ方は、当然チームの状況の影響を受けますが、感じ方には個人差があります。定義に沿って考えるならば、心理的安全性が低いと感じるメンバーが一人でもいる状況は、心理的安全な状況とはいえないということになります。
心理的安全性の先行要因と結果
心理的安全性の「先行要因」には、
・パーソナリティなど個人特性(主体性、情緒の安定性、新たな経験への開放性、学習目標志向)
・リーダーとの良好な関係性
・裁量性など仕事の特徴
・支援的な組織風土
があります。
これらの先行要因とも心理的安全性の関連をみたのが、「平均の測定値」です。先行要因と結果変数との相関のメタ分析の結果をみると、全般的に個人の特性よりも、リーダーとの関係性や仕事の特徴、組織風土の方が心理的安全性との関連が強いことがわかりました。これはリーダーとの関係性を改善するなどの働きかけによって、心理的安全性を高めることが可能であることを示唆します。
心理的安全性の効果
エドモンドソンが心理的安全性の効果として最初に想定したのは「情報の共有」や「学習」でした。自由な発言を引き出すことで情報は共有され、組織の学習が進むと考えました。加えて、満足度やコミットメント、エンゲージメントなどの組織や仕事に対するポジティブな態度とも、安定して正の関係性が見受けられています。心理的安全性の高いチームにいると、自分の意見や考えを活かすことができるため、前向きに仕事に取り組むのではないかと考えられます。
心理的安全性が効果を持つ条件
製造業とサービス業の従事者を対象として心理的安全性が知識共有に影響を及ぼす程度を検証した結果、自分の知識に自信がある従業員は、心理的安全性とはあまり関係なく知識共有を行いますが、自信のない従業員は心理的安全性が高いほど知識共有を行うことができました。
また、医療現場のチームが新たな技術を学ぶ際に、権威やステータスに関係なく気づいたことを発言するようにリーダーが促したことが、チームの学習を促進したことを示す研究もあります。これらの研究からは、立場の弱い人、対人リスクを感じやすい人にとって心理的安全性は効果的であることが示唆されます。この医療チームの研究では、情報共有に加えて、リスクていくやトライアル&エラーなどの行動も報告されており、心理的安全性は創造性にも効果がありそうです。
中規模のドイツの会社における業務プロセス改革と、心理的安全性、ROAの関連を見た研究では、心理的安全性が高い場合にのみ、業務プロセス改革の結果、会社のROAが向上する効果が見られたことが報告されています。これは、業務プロセス会かっくという新しい取り組みへの抵抗感が、心理的安全性が高い場合に払拭されたことを示唆するものです。
また、グローバルなバーチャルチームを対象にした研究では、心理的安全性が低い場合は、メンバーの国籍の多様性はチーム成果の低下につながったと示されています。ダイバーシティの高さは、チームに多様な視点をもたらすことで新たなアイデアや解決策につながることが期待される一方、メンバー間での衝突の原因になると考えられます。ダイバーシティが創造性を高めるための条件として、心理的安全性が機能したと考えられます。
心理的安全性の活用に向けて
心理的安全性活用の最初のステップは、心理的安全性を高めることで解決したい課題を明らかにすることです。日本企業のチームリーダーやマネジメント職を対象に行った調査で、心理的安全性が必要だと考える理由として「業務上、情報共有が必要」「多様な意見や活発な議論によって新しいものを生み出す必要がある」「早期にリスク情報を挙げてもらって大きなトラブルにつながるのを防ぐ」などの意見が多く挙げられていました。加えて、「意見を発言できないとストレスがたまる」「良い雰囲気づくり」「モチベーションの向上」といった心情面に配慮した意見もありました。
心理的安全性は、特に立場の弱い人間の発言を促すことによる効果が期待できます。発言を控えがちな人にアイデアを出してもらえば組織全体の学習に、また警告を発してもらえれば組織のリスク軽減につながります。発言することでメンバーは、自分の発言に耳を傾けてくれたと感じて、ポジティブな心理状態を経験するかもしれません。結果的に、メンバーのメンタルヘルスの向上に寄与する可能性もあります。ただし、心理的安全性は個人のストレス軽減を直接のねらいとするものではないことを認識する必要があります。
最後に、ねらった発言を引き出せたとしても、それがチーム全体に及ぼす影響をモニタリングする必要があります。例えば、あるメンバーの発言は他のメンバーの脅威になる可能性があります。また、心理的安全性は、すべての発言を許容することではありません。発言する人と発言を受ける人の両方にとってストレスにならず、双方が自由に意見を言い合うチームを実現しようと思うと、丁寧に状況を見ながら、必要に応じた調整や介入を行うことが求められます。
心理的安全性は上司部下間、部門間のコミュニケーションやその会社のマネジメントスタイル、組織風土と関係が大いにあります。部下からなかなか報連相がないとか、部下がイエスマンばかりで発言が控えめ、あるいは離職率が高いなどの傾向がある場合は、コミュニケーションやマネジメントスタイルについて見直しが必要ですので、コミュニケーションの研修やワークショップを実施してみてはいかがでしょうか。
コーチングサプリでは社内のコミュニケーションがどのようなレベルかを評価するアセスメントを使いながら、何をしていくといいのかを皆さんと一緒に考えるお手伝いをします。お気軽のご相談ください。
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