経営者やマネージャー自身のメンタルヘルスケア
2022/10/07
部下を持った人やチームのリーダーになったご経験のある人はよくわかるでしょうが、組織を束ね何らかの目的や目標を達成する過程で、様々なトラブルが発生しその都度スピーディーな対応や決断をくださないといけません。ときに組織内の人間関係のトラブルに関与しなければならないこともあります。また、一昔前なら部下の行動を正すのに厳しい一言を発してなんとか収められたかもしれませんが、今の時代はそれがハラスメントと捉えられることもあります。とくに経営者は昔から孤独だと言われるように、他人に相談することができず、ストレスレベルが高すぎる状態の人が多いといえます。
従業員のメンタルヘルスケアはセルフケア(例えば本人がストレス発散をする)とラインケア(上司が部下の様子に注意し予防する)がありますが、上司側もメンタルヘルスケアは必要であり、上司側の方が一般社員以上にストレスを持つ人の割合が高いというデータがあります。よって、経営者やマネージャーのセルフケアは非常に重要です。
- ○ マネージャー層にみられるストレス
- ○ マネージャー層のためのストレス対策
- ・1)質問票を利用する
- ・2)質の良い睡眠をとる
- ・3)ものの見方・考え方を整理する
- ・4)アサーティブ・コミュニケーション
- ・5)リラックスする
- ・6)自ら相談する
- ・7)メンタルヘルス・マネジメント研修を受ける
マネージャー層にみられるストレス
マネジャー職にみられる心の病気として、昇進を機にうつ病を発症する例があります。昇進という周りからみれば喜ばしいと思えることも、本人にとってはストレスとなりうります。結婚を50としたホームズらのストレス値では、仕事上の責任変化は29となっています。昇進をしても、管理職となったことで、それまでついていた残業代がつかなくなり、給料は逆に減ってしまったり、部下を指導しなければならない、責任が重くなることなどがストレスとなります。また、中間管理職では、上司と部下との間で板挟みになってしまうことでストレスを受けることもあります。
一般に、ストレスを受けやすい性格として、まじめ、几帳面、仕事好き、他人との円滑な関係を保つことに気を使うなどが言われています。こういった人は、元気なときは職場にとっては非常にありがたい存在ですので、マネージャーになる人もこのような性格の方が多いと考えられます。しかしながら、こういった人は一方で、物事を一旦やりだすと徹底的に行い、自分の限界を超えてしまう危険性があったり、他人を気遣うあまり、自分の時間が損なわれてしまうことにもなり、結果として、ストレスを受けるようになってしまいます。
マネージャー層のためのストレス対策
経営者やマネージャー職に対するストレス対策は、基本的には従業員に対するセルフケアと同じものであり、「ストレスへの気づき」「ストレスへの対処」「自発的な相談」となります。ただし、それぞれに対して、管理監督者特有の対策が必要となります。
ストレスへの反応は人によって様々ですが、その人個人に現れるストレス反応は同じことが多いものです。イライラする、頭痛がする、タバコの量が増えるなどのストレス反応は、ふだんからそういった反応に注意していれば、職場生活が長い管理監督者の方が従業員よりもかえって気づきやすいとも言えるでしょう。一方で、ストレスを受けているにもかかわらず、自覚しない場合もあります。自覚していないストレスに気づくには、「職業性ストレス簡易調査票」などの質問票を用いる方法もあります。
1)質問票を利用する
「職業性ストレス簡易調査票」は以下のような特徴を持っています。
<職業性ストレス簡易調査票の特徴>
①ストレスの反応だけではなく、仕事上のストレス要因、ストレス反応、および修飾要員が同時に測定でき多軸的である
②ストレス反応では、心理的反応ばかりではなく身体的反応(身体愁訴)も測定できる
③心理的ストレス反応では、ネガティブな反応ばかりでなく、ポジティブな反応も評価できる
④あらゆる業種の職場で使用できる
⑤項目数が57項目と少なく、約10分で回答できるため、労働の現場で簡便に使用できる
ストレスへの対処として、まず、適度な運動が挙げられます。多忙な管理監督者でも、裁量権は労働者よりもあるため、タイムマネジメントなどのスキルを身に付けることに寄って、運動のための時間を見出すことが可能ですただし、夜遅くに激しい運動を行うと、寝つきが悪くなりますので、注意が必要です。
2)質の良い睡眠をとる
良質な睡眠をとることも、ストレスの対処法としては重要です。必要な睡眠時間は個人差が大きいため、1日8時間睡眠にこだわる必要はありませんが、あまりにも睡眠時間が短い状態が続くと、ストレスに対する抵抗力が下がります。少なくとも1日5~6時間の睡眠時間を確保するようにしましょう。アメリカでは、エグゼクティブが朝早く出社して、誰もいないうちに集中して仕事をすることが有名ですが、日本でも早朝出社を歓迎する職場が増えています。忙しい管理監督者でも仕事の密度を濃くして、余った時間を睡眠に充てることができます。
気性については、毎日同じ時刻に行なうことを心がけます。そして起床したら、できるだけ早くカーテンを開けて、朝日を浴びるようにします。そうすると、体内時計がセットされ、夜になると自然と眠くなります。休日は、平日に足らない睡眠を補うために遅くまで眠る人がいますが、かえって睡眠のリズムが乱れて逆効果になってしまいます。なので、休日の前の日は早く寝て、起床時間を平日と同じになるようにする方が望ましいです。
眠るために寝酒をする人がいますが、飲酒量が多くなると、睡眠の質が悪くなってしまいます。また、アルコールには利尿作用があるため、夜中にトイレに起きてしまうことで睡眠が浅くなることもありますので、飲酒の機会が多い人は特に注意が必要です。
睡眠以外の休養も大事です。平日は一生懸命働いて、土日はゆっくり休むといったメリハリをつけることが大事です。仕事の負荷が少ない時期には、有給休暇を取得します。そうすると、部下も休みたいときに気兼ねなく有休を取るようになり、部署全体のストレスも低下します。また休暇中でも仕事の連絡が入るようにしっている、あるいは連絡が取れるようにしなければならないという会社や立場の人がいますが、できる限り休日・休暇中はオフラインにして仕事のことを考えないようにオンとオフをしっかり分けることが、働きやすい職場といえますので、上司側の方からそれを実践していくようにしたいものです。
3)ものの見方・考え方を整理する
ストレスを受けやすい性格というものがありますが、性格はなかなか変えることが難しいものです。しかし、ものの見方や考え方(認知)は意識することで変えることができます。認知的アプローチは、自分の「心のくせ」や思考パターンを知り、それをより柔軟性の高いものに変化させていくことで、ストレスに対処する方法です。うつ病や不安障害などの治療においても、薬物療法と同じくらい効果があるとの報告もあります。
人にはその人特有の物事の捉え方(認知のパターン)があり、それが感情のコントロールに影響を及ぼしています。例えば、いつもネガティブな考え方(認知の歪み)をしている人は、憂鬱な気分に悩まされることになります。人は不安になったり、イライラした時などには自然に何らかの考えやイメージが頭に浮かんでくるものです。このようにある場面で自然に浮かんでくる考えやイメージを「自動思考」といいます。自動思考は、その人の心の根底に存在する個人的確信(スキーマ)から派生していると考えられています。自動思考は、瞬間的に浮かんではすぐに消えてしまう上、自分の一部になっていて違和感がないために、認識することが難しいものです。これを認識するためには、心理的な葛藤があって感情が大きく変化した時に、浮かんだ考えを意識するように努力して、できればその場でメモに書き留めておくとよいでしょう。そして、眠る前など時間が空いた時に、その日の「自動思考」について、10分程度の時間を割いてまとめてみると効果的です。記述することではじめて自分の考えをより客観的に見ることができます。
次に「自動思考」にどのような「認知の歪み」が存在するかを分析します。
<バーンズの認知の歪み10パターン>
①全か無か思考
②一般化のし過ぎ
③心のフィルター
④マイナス化思考
⑤結論の飛躍
⑥誇大視と過小評価
⑦感情的決めつけ
⑧すべき思考
⑨レッテル貼り
⑩自己関連付け
「認知の歪み」について自己評価できたら、他の合理的な考えがないかを検討します。普段から、人の意見を注意して聴いてみるようにすると、自分と違った意外な考え方があることに気づかされます。そのようなことを通して、柔軟な考え方ができるように訓練することも大切です。
4)アサーティブ・コミュニケーション
自己否定的な認知のため自己方言がうまくできない人や、逆に自己主張が強すぎて相手を抑え込んでしまう言動をする人へ行う、自分も相手も大切にする自己主張としてアサーティブ・コミュニケーションというものがあります。とくにマネージャー層は役割的に自己主張が強く出てしまいがちですので、いくら部下といえども、相手を尊重し傷つけないコミュニケーションを心がけましょう。
<アサーティブ・コミュニケーションのポイント>
①自分の正気な気持ちに気づく
②周囲の状況や相手を客観的に観察する
③自分の要求や希望を明確に表現する
④言葉以外のメッセージも利用する
5)リラックスする
リラクゼーション法もストレス対処法として重要です。有名なものとして自律訓練法があります。これは講習テキストが容易に入手でき、研修教材が揃っている点が実施しやすいです。しかし、習得するまでに約1か月かかってしまいます。したがって、簡便にできる呼吸法やマインドフルネスなどを行うのがよいでしょう。呼吸法はマインドフルネスの一例ですが、要はいまこの瞬間に集中することです。呼吸することに集中してもいいですし、私はマラソンが趣味ですので、日頃のジョギング中に走ることに集中するだけで無になり、余計な考えはどんどん風と共に吹っ飛んでいき、走り終わった後はとても心が身軽になっていますし、前向きな気持ちになります。
6)自ら相談する
経営者やマネージャー職の「自発的な相談」については、従業員に比べて相談相手が限られてしまいます。よって、相談先として産業保健スタッフや事業場外資源(例えば、弊社のようなプロコーチ)を活用することをおすすめします。コーチングの場合、ストレスになっている要因(ストレッサー)を明らかにし、それをいかに無くす又は軽くするか、その方法を対話しながら一緒に見つけ出し、解決するアクションプランを立て、ご本人が実践するというものです。
7)メンタルヘルス・マネジメント研修を受ける
最近は企業が健康経営を実践しているところが増えています。そのような会社は従業員の心身の健康づくりに対する動機づけや健康づくりのノウハウを健康セミナー(社内研修)を行っていると思いますが、経営者や管理職を対象にしたメンタルヘルス・マネジメント研修を受けられると、どのような職場環境が望ましいのか、どんな言葉を部下にかけたらいいのか、部下の不調をいち早く気づくにはどんな点を注意して見ればいいのかなどを知ることができます。またそれを受けることによって、自分自身の不調にも早く気づけるようになります。
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