管理者の役割|部下のストレスマネジメント
2022/05/11
厚生労働省の「労働者の心の健康の保持増進のための指針」では、管理監督者及び産業保健スタッフがそれぞれの立場から職場環境等の改善を通じたメンタルヘルス対策を推進することが求められています。管理監督者≠管理職であり、中小企業であれば経営者と役員(とくに同族経営の場合)が該当しますが、経営者が現場の従業員と日常的に関わることが少ないケースがあります。よって、その職場(作業場、事務所など)の管理職の人もただ業務遂行を管理するだけでなく、部下のメンタルヘルス対策も意識する必要があります。
メンタルヘルス対策としての管理者の役割は以下の4つです。
1)日常の職場管理等によって把握した職場環境等の具体的問題点の改善を図ること
2)職場環境改善の実施にあたっては従業員の意見を踏まえるよう努めること
3)事業場内外産業保健スタッフ及び事業場外資源の助言及び協力を求めること
4)対策の効果を定期的に評価し、効果が不十分な場合は、計画を見直し、継続的な取り組みに努めること
- ○ 注意すべき職場でのリスク要因
- ・「強」レベルの心理的負荷
- ・長時間労働
- ・長時間労働等による精神的疲労の兆候
- ・メンタル不全を起こすその他のストレス要因
- ○ 仕事以外でのストレス
- ・喪失体験
- ・悩みの種、責任の増大等
- ○ 部下への対応のポイント
注意すべき職場でのリスク要因
管理者は部下が精神障害を発病させる恐れのある職場の心理的負荷を排除するよう努めるとともに、そのような心理的負荷に曝されている従業員の健康状態を十分確認するようにしましょう。
また、心理的負荷となる出来事に伴って、さらに仕事の量、質、責任、職場の人的・物的環境、支援・協力体制等がどのように変化したかについても検討し、心理的負荷の強度を総合的に評価し対策をとるものですが、特に恒常的な長時間労働は、精神障害発病の準備状態を形成する要因となる可能性が高いとされていることから、心理的負荷の評価にあたっては重視されます。
「強」レベルの心理的負荷
「弱」レベルの心理的負荷はそれが幾つか重なったり長期化することによってメンタル不全に陥る場合もあれば、1つの出来事でダメージを受ける場合もあります。
<「強」の心理的負荷とされる出来事例>
1)職場における心理的負荷
・事故や災害の体験(大きな病気やケガ)
・仕事の失敗や過重な責任の発生(交通事故を起こした、重大な仕事上のミスをした)
・身分の変化(退職を強要された)
2)職場以外の心理的負荷
・自分の出来事(離婚又は別居した、重い病気やケガをした)
・家族や親族の出来事(別離、重い病気やケガ)
・金銭関係(多額の財産の損失、大きな支出)
・事件、事故、災害の体験(天災や火災、犯罪に巻き込まれた)
長時間労働
長時間労働等による精神的疲労は、うつ病などのメンタル不全を発症させる有力な要因と考えられています。具体的な労働時間数とメンタル不全発症との関連を示す基準はありませんが、次の2つの基準がある程度の目安になります。
<労働時間延長の限度>
期間が1週間の場合、15時間が限度
期間が2週間の場合、27時間が限度
期間が1か月の場合、45時間が限度
期間が3か月の場合、120時間が限度
期間が1年間の場合、360時間が限度
また、厚生労働省が2002年に示した「過重労働による健康障害防止のための総合対策」では、脳血管疾患及び虚血性疾患等と時間外労働時間の関連は、概ね月45時間を超えて時間外労働が長くなるほど業務と発症との関連性が徐々に強まり、概ね月100時間を超えるか2~6か月にわたって1か月当り概ね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連が強いと判断されるという医学的検討結果に基づき、「事業者は時間外労働を月45時間以下とするよう努める」ことなどを求めています。
長時間労働等による精神的疲労の兆候
長時間労働による精神的疲労から生じるメンタル不全で最も多いのは、うつ病です。うつ病の際に見られる変化が下記の通りです。
<うつ病で見られる言動の変化>
・なんとなく元気がなくなった
・口数が少なくなった
・冗談を言ったり笑ったりしなくなった
・会議等で自発的に発言しなくなった
・理由のはっきりしない休みが増えた
・昼食をあまり食べなくなった
・新聞や本などを読まなくなった
・よくため息をつくようになった
・疲れたと深刻な表情で訴える
・気弱なことを言うようになった
・仕事に自信を失い自己卑下するようになった
・仕事がはかどらなくなった
従業員にこれらの変化が見られたら、問いかけを行い、うつ病の症状の有無を確認し、症状が半分も当てはまるようであれば、専門医への受診を促さなければなりません。
厚生労働省の「家族による労働者の疲労蓄積度チェックリスト」は精神的疲労に限定したものではありませんが、周囲から見て心身の疲労度を判定する目安になるでしょう。
メンタル不全を起こすその他のストレス要因
長時間労働等による精神的疲労意外に、メンタル不全が発症するきっかけとしてよく見られる職場のストレス要因は、以下の通りです。
自信を失う経験
人事異動や担当業務の変更により新たな担当業務が思うようにできない場合の他、仕事上の大きな失敗をする、上司から勤務成績を悪く査定される、昇進が遅れたり左遷と考えられる人事異動を命じられるなど。また、上司から能力がないといった叱責を繰り返し受けることも、自信喪失からうつ病等に至る誘因となることがあります。
社会的に糾弾される立場に追い込まれる
業務遂行に関連する行為によって罪に問われる、社会的に重大な事件や事故の責任を追及される、世間の厳しい批判にさらされるなどといった状況に置かれた場合、うつ病等のメンタル不全だけでなく自殺に至る場合もあります。
孤立無援の状況
単身で海外等の遠隔地で困難な業務を遂行する場合や長期間客先に常駐し1人で業務を遂行する場合、本人の性格や人間関係のトラブル等から職場で孤立している場合など、容易には相談も援助も求められない状況の中で業務上厳しい時代が生じた際にも、うつ病等のメンタル不全が発生するだけでなく自殺の危険もあります。
仕事以外でのストレス
喪失体験
喪失体験とは、自分にとって大切なものや慣れ親しんだものを失うという体験であり、引っ越し、家族の死、子どもの独立、離婚・失恋、体力や能力の衰えといった出来事があります。
喪失体験をきっかけとして発病するメンタル不全のほとんどはうつ病です。にもかかわらず、本人は自分にとって大切なものを失ったという自覚を持っていないようです。
悩みの種、責任の増大等
メンタル不全の誘因となりうるその他のストレス要因としては、本人の病気・ケガ、家族の病気・ケガ、子ども等の非行・犯罪、経済的困窮・借金、犯罪や災害への遭遇等、いわゆる悩みの種というべきものやショックとなる出来事があります。
そういった望ましくない出来事だけでなく、本人の結婚・出産といった喜ばしい出来事さえもメンタル不全の誘因の1つになることがあります。良い出来事も悪い出来事も「変化」という点で捉えれば理解は難しくないでしょう。
部下への対応のポイント
以上のストレス要因は、メンタル不全の誘因となり得るため、それらのストレス要因を抱えている従業員に対しては、注意深く見守り、時々声をかけて心身の状態を確認したいところです。しかし、本人に確認することは現実的には困難です。よって、まずは2つのアンテナを立てて部下を観察しましょう。
<部下の観察ポイント>
1)自分が管理又は所属する部・課の中で、他の従業員らと比べて態度や言動などの様子がおかしい人はいないか
2)自分が管理又は所属する部・課の中で、今までと態度や言動などの様子が違う人はいないか
また、従業員に話を聞く際に、プライベートな問題に職場の上司が立ち入りすぎるとかえって問題となりますので、以下の対応を心がけましょう。
・メンタル不全の発病との関連が認められる可能性が高いストレス要因は極力職場から排除する
・職場のストレス要因を抱えている従業員に対して、注意深く様子を観察し、時折健康状態を確認し、必要に応じて受診を促す
・それ以外のストレス要因を抱えている従業員に対して、さりげなく心身の状態を尋ねたり、無理のない範囲で注意を向ける
・ストレス要因が認められなくても、勤務態度や言動に変化がみられた従業員に対しては、必ず声をかけ、心身の状態を確認する
最後に補足ですが、日頃の上司と部下の関係が良好でなければ、いくら上司が心配げに部下に話しかけても、警戒され悩んでいることも体調が芳しくないことも口にしないものです。よって、業務中のちょっとした合間に部下と雑談することを心がけ、そこから自由に安心して話ができる関係性を築いていきましょう。
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