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メンタルヘルス不全を知ることが心理的安全性のある職場づくりの第一歩

メンタルヘルス不全を知ることが心理的安全性のある職場づくりの第一歩

2021/12/21

会社のリスクマネジメント


メンタルヘルスは健康経営で取り組む項目の1つに入り、また従業員の仕事に対するやる気や生産性にもかかわる重要な要素です。心の病気にはどういったものがあるのかを知っておくことで、早めに対処することができます。

メンタルヘルス不全とは

そもそもメンタルヘルス不全とは、心の不健康状態を総称する用語で、
前回紹介した心身症だけでなく、精神疾患、行動障害などが含まれてきます。

ここでいう行動障害とは、
・出勤困難
・無断欠勤
・職域での人間関係や仕事上のトラブルの多発
・多量飲酒
など仕事に支障をきたすものとなります。


職域における健康づくりにおいては、生活習慣病対策と並び、
職場ストレスによるメンタルヘルス不全の発生を防ぐことが、
重要課題とされます。

職場ストレスは、従業員個人のセルフケアのみでは対処困難な側面があるため、
管理監督者は従業員の自助努力を支援すると同時に、
メンタルヘルス不全を誘発しうる職場の健康障害要因に対する
積極的介入が必要となります。


以下は勤労者にみられるメンタルヘルス不全・精神疾患です。

勤労者にみられる精神疾患

うつ病(うつ状態)

うつ病は人口の2~3%にみられる決して希な疾病ではなく、一生のうち1度以上うつ病にかかったことのある人は15%前後とされます。

従来、社会適応のよかった人に起こる傾向を認め、「憂鬱な気分」「不安」「おっくう感」などが混在した状態となります。注意点は、うつ病では本人が「うつ病」とは気づきにくいことです。なぜなら、当初は全身倦怠感、頭重感、食欲不振などの身体症状がまず自覚されるため、体の病気だろうと本人が考える傾向にあるためです。

<うつ病の症状>
・朝の不調-朝早く目が覚める、朝の気分がひどく重く憂鬱、朝刊やテレビを見る気になれない、
      身支度が大儀となる
・仕事の不調-午前中を中心に仕事に取り掛かる気になれない、仕事の根気が続かない、
       決断できない、気軽に人と会って話せなくなる、不安でイライラする、
       仕事をやっていく自信や展望が持てなくなる
・生活の不調-以前は好きだったことがつまらなくなる、涙もろくなる、
       誰かに傍に居てもらいたいと思うようになる、
       昼過ぎから夕方までは気分が重く沈む、
       ときに「いっそのこと消えてしまいたい」と考えるようになる
・身体の不調-不眠、疲れやすい、だるい、頭痛、食欲低下、性欲減退、口が渇く

これらの諸症状に、特に「興味の減退」と「快体験の喪失」(入浴の心地よささえも消失する)が2週間以上継続し、毎日何気なく繰り返してきた行為がつらくなりできなくなった場合には、うつ病が疑われます。


対応の原則は、急用と服薬による心理的疲労回復が治療の2本柱となります。
このため、療養中は業務から完全に開放されることが必要となります。

多くの場合、数か月間(3~6か月程度)は自宅療養が必要となります。復職後も最低半年程度は通院・服薬を継続することが必要です。業務や周囲への気兼ねを理由に復職後通院治療を自己中断するケースがありますが、再発の危険性が非常に高くなります。再発を認める事例では長期間の継続服用が推奨されています。薬物療法としての抗うつ薬は近年進歩がみられ、その有効性は高いものとなっています。

復職後は、職場の対応が重要で予後を大きく左右します。自宅療養→就業という劇的な環境の変化によるストレスを少しでも緩和する工夫が必要です。中でも、直属上司からの支援はきわめて大切で、就業制限はもとより、段階的な業務復帰、復職者が安心して上司に相談できる関係づくりなどが望まれます。

躁うつ病(躁状態)

うつ状態と、これとは対照的な躁状態という2つの病態がみられるもので、人口の0.5%前後にみられます。

躁状態では睡眠時間が減少しているにもかかわらず活動性は高まり、抑制や配慮に欠ける言動の結果、尊大で横柄な態度となります。大きな声でよくしゃべり、内容も非現実的で誇大な傾向がみられます。このため、職域で周囲の人や取引先とトラブルを起こすことが少なくありません。

症状が軽い(軽躁)レベルでは、バイタリティーのあふれる仕事熱心な人とみなされていることもありますが、症状が進行すると活動的である一方パフォーマンスは著しく低下し、周囲に迷惑をかける状況となります。

この段階では病識(自分が病気であるという認識)が希薄であることが多く、治療につなげるのに難渋することが少なくありません。直属の上司と家族が連携して、専門的治療につなげるなどの工夫が必要になります。

統合失調症

2002年に「精神分裂病」から呼称が変更されたもので、人口の0.8%前後にみられます。

10代後半から30代前半の若年者に発症しやすく、妄想や幻聴を特徴とします。また、幻覚・妄想などの陽性症状が一旦安定した後でも、陰性状態と呼ばれるコミュニケーション生涯、意欲・自発性欠如、引きこもり傾向などが後遺障害として残りやすいため、仕事に就きながら療養することは難しく、比較的長期の休職を必要とすることが多くなります。

しかし、近年では薬物療法を中心とした治療法が進歩したため、適切な病気療養が確保でき、職場において個々の回復の現状に合わせた場を周囲の理解と支援のもんとに得られれば、安定した経過を呈する人も多いものです。ただし、幻聴・幻視などの幻覚、被害妄想、現実と非現実の区別がつかなくなった支離滅裂な思考などの陽性症状には薬物療法が有効ですが、陰性症状に対しては十分に奏功しない場合が少なくありません。このため休業・復職のプロセスに息の長い支援をもって臨むことが必要となる疾患です。

アルコール依存症

アルコールは適量であればストレス解消や健康に有益な側面もありますが、節度を超えた飲酒は大変危険です。

当初は付き合いでたまに飲んだりしていたもの(機会飲酒)が、次第に毎日飲むようになり(習慣飲酒)、そのうち飲み過ぎて前日のことを思い出せないこと(ブラックアウト)が度々起こるようになったら要注意です。

このような状態を続けていると、毎日飲まずにはいられなくなり(精神依存)、アルコールが切れると手が増える・冷汗がでる・イライラする・眠れないといった身体依存が形成されてしまいます。

職域では、飲み会での逸脱行為、飲み過ぎによる遅刻や欠勤、出勤時のアルコール臭などが問題行動としてみられます。一旦こうなってしまうと、治療としては完全断酒しかありませんが、治療は難渋することが少なくありません。

自助グループである断酒会(アルコール依存症者の自主治療協会)が有効な場合がありますが、いずれにせよ、早期対処(アルコールとの節度ある付き合い方)が重要となります。

パニック障害

突然起こる不安発作(動悸、めまい、息苦しさ、非現実感など)が繰り返されるもので、その際の不安感は「このまま死んでしまうのではないか」と思うほど強烈なものです。

このため、しばしば救急車で救急外来を受診したりしますが、身体的検査では呼吸器系・循環器系・脳神経系などに明らかな異常所見は認められません。しかし、「また発作が来たらどうしよう」とう予期不安を伴うため、電車に乗ったり、人混みの多い場所へ外出したりすることが困難(外出恐怖、広場恐怖)になってきます。

薬物治療を中心に治療法がある程度確立しているので、予後は比較的良好ですが、服薬は1年程度以上継続することが必要とされます。また、空腹、怒りなどの強い陰性感情、孤立感、疲労は症状悪化の背景要因となるため、適切な生活習慣への是正も大切です。

適応障害

誰の目からみても明らかなストレスエピソードを契機に、1~3か月以内に不安、憂鬱な気分、行為の障害(無断欠勤、喧嘩、無謀運転など)が出現し、この結果、仕事や日常生活に支障をきたすレベルの状態に至るものです。ストレス反応が強い形で現れた病的状態と理解できます。

通常、ストレス状態が解消されれば、症状は半年以内に消失します。勤労者では、仕事ストレスで発症することも多く、このため契機となった職場要因を調整・修正することで解決することが多いものの、本人の素因が関与している事例では遷延化することが稀ではありません。

職場におけるメンタルヘルス不全の現れ方と対処

<メンタルヘルス不全のサイン>
・仕事能率の低下
・仕事のミスやロスが増える
・遅刻/早退/欠勤が多くなる
・挨拶や付き合いを避けるようになる(孤立)
・他人の言動を気にする
・態度が落ち着かずイライラする
・口数が少なくなる(または多くなる)
・考え込むようになる
・些細なことで腹を立てたり反抗する

まとめると、パフォーマンス低下、勤務状況の悪化、対人関係のとり方の悪化(職場トラブルの増加)などです。

管理監督者としては、こういった状態を早めに察知し対処することが大切なため、日頃から部下とコミュニケーションを適切にとり、部下が相談しやすい人間関係を構築しておくことが肝要です。

そして、メンタルヘルス不全のサインが疑われた従業員とは1度、時間的余裕のあるときに別室で時間をとって話を聞き、業務に起因するものであれば職場内での調整が必要です。しかし、内容によってはここに紹介したような何らかの疾病が疑われた際は、産業保健スタッフにつなげたり医療機関受診を確認するなど、医療につなげるところまでは管理監督者の安全配慮義務上の責務と考えられています。

すなわち、管理監督者においては、部下の疾病の診断をする必要はありませんが、医療につなげる義務はあるとされています。

社会資源の活用

メンタルヘルス不全はその病態や対処が原理原則に基づかないことも多く、個別性が極めて高い疾病です。このため、管理監督者として対応に苦慮することがすくなくありません。

また、産業保健スタッフが充実していない企業では、上司が問題を独りで抱えてしまいがちです。これは効率出来ではなく、さらに上司自身のメンタルヘルス場も多大な負担となりがちです。

対処困難なメンタルヘルス不全事例においては、決して独りで抱えることなくチームで抱えることが原則です。そのような場合は、事業場外資源(社会資源)の活用もご検討ください。



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